研究課題
統合失調症感受性遺伝子変異の平衡選択の可能性を検討するため、代謝調節型グルタミン酸受容体遺伝子群を含む統合失調症関連遺伝子群、計12個の上流領域を対象として、ヒト72検体、チンパンジー24検体の全変異検出を行い頻度スペクトラム法(Tajima's D(以下TD))による中立性の検定を行った。1) 代謝調節型グルタミン酸受容体遺伝子全8個のうちパラログが存在するためにPCRによる解析の不可能なGRM5を除く7遺伝子の解析の結果、領域全体の解析では、ヨーロッパ人においてGRM1が有意な正のTDを示し(+2.66)、平衡選択が示唆された。同様にウィンドウ解析(ウィンドウサイズ100bp、ステップ20bp)では、GRM1転写開始点の上流3.7kb付近において日本人とヨーロッパ人でTDの有意な上昇(それぞれ+2.25, +2.17)が見出された。いずれの領域もチンパンジーでは有意な自然選択は検出されず、これらの領域はヒト特異的平衡選択の対象となった可能性が示唆された。2) 統合失調症との関連が報告されている遺伝子のうち、BDNF、COMT、DRD1、DRD2、SLC18A1の5個について、有意な関連が報告されたSNPの周辺領域各7kbおよび上流領域5kbを対象に1)と同様の全変異検出を行った。その結果COMTの非同義SNP、rs4680 (Val158Met)周辺領域において、ヨーロッパ人で有意な正のTDが観察され(+2.10)、日本人集団とアフリカ系アメリカ人集団においても有意ではないものの同様の傾向(それぞれ+1.46, +1.75)が見られた。しかし、チンパンジーにおいては同様の傾向は全く観察されなかった。以上のことから、rs4680のアミノ酸多型はヒト特異的な平衡選択で維持されており、統合失調症に関連する表現型が、そのターゲットになった可能性が示唆された。
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BMC Evolutionary Biology 9
ページ: 224
Psychiatric Research 167
ページ: 88-96