本研究課題では上記の研究背景をさらに発展させると同時にこれまでおこなってきたMHC領域における比較ゲノム解析を完結させることを目的として、(1)ヒトと比較的近縁である霊長類サル(マーモセット)ならびに海棲ほ乳類(オキゴンドウ)のMHC領域のゲノム配列を決定し、(2)得られたゲノム配列とヒト、アカゲザル、ラットなどの既知のゲノム配列情報を含めて、比較ゲノム解析に必要な情報を抽出した。その結果より、ほ乳類祖先MHC領域の推定ならびにその祖先領域から現在のヒトのMHC領域に至るまでの進化形成の過程、MHC領域のゲノム進化と疾患感受性遺伝子生成との関連性や生活環境がゲノム構造に及ぼす影響を明確にした。また比較ゲノム解析の先には、ゲノム多様性解析が必要であると考えられることから、ヒトMHC領域3.8MbにおけるHLA領域ゲノム配列決定法の開発を進めた。具体的には、MOG遺伝子~KIFC1遺伝子の約3.8Mbを網羅する403カ所のプライマーセットをヨーロッパ人に頻度の高いゲノム配列に基づいて設定した。日本人に頻度の高いヒトMHCホモ接合DNAを用いたPCR増幅の結果、403カ所のうち400カ所のプライマーセットに明瞭なPCR産物が確認され、ヒトMHC領域の約99.2%を存網羅することに成功した。したがって、本PCR増幅システムと次世代シーケンサーの組み合わせは、各生物種におけるゲノム多様性解析に有効なゲノム配列決定法であると考えられた。
|