本研究の目的は、従来、体細胞変異が数多く検出されている癌遺伝子およびそのシグナル伝達経路関連遺伝子を候補とし、先天奇形症候群の病因遺伝子を同定するための戦略について検討と実証をおこなうこと、さらに癌原遺伝子を生殖細胞変異にもつ患者における発癌のメカニズムを明らかにすることである。まず、選定した候補遺伝子について、症例より得られた検体を対象に、順次、遺伝子変異の検索を行った。またシークエンスにより遺伝子変異が認められなかった症例については、MLPA法を用いて候補遺伝子のコピー数の増減の有無を検索した。その結果、RAS/MAPK症候群の原因遺伝子としてあらたにRAF1およびSHOC2が同定された。つぎに、変異蛋白の細胞内発現による機能解析を実施した。まず、ヌーナン症候群の患者18人で見出したRAF1遺伝子変異について、臨床症状との相関と変異蛋白の機能解析をおこなった。RAF1遺伝子変異を持つ場合、PTPN11やSOS1などの他の遺伝子異常に比べて肥大型心筋症と低身長の合併頻度が有意に高かった。変異RAF1蛋白の機能解析では、抑制性のS259部位のリン酸化が低下しており、そのためにRAF1活性抑制に重要な14-3-3蛋白との結合が低下し、非刺激時にも下流のERKを活性化していることが明らかとなった。一方、SHOC2遺伝子変異を有している患者は11人同定され、詳細な解析を実施中である。コピー数多型(CNV)の探索のために、DNAマイクロアレイシステムを立ち上げ、患者での検索を開始した。
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