パスウエイデザインを施した枯草菌によるD-chiro-inositol生産の副産物として生じるscyllo-inositolを与える経路を解明し、この経路に関与する酵素IolXとIolWに関する知見を論文発表した(Microbiology 2010 in press)。これらは、それぞれ独立してscyllo-inositol脱水素酵素をコードしており、前者はNADを後者はNADPを補酵素とすることも判明した。 このscyllo-inositol経路はD-chiro-inositol生産の立場からすれば遮断すべきであり、選択的に活用できればscyllo-inositol生産を可能にするという別観点から有益である。本年度は、これらの選択活用によって安価なmyo-inositolからD-chiro-inositolとscyllo-inositolの作り分けを可能とするバイオコンバージョン手法の確立した(2010年度日本農芸化学会大会 講演番号2Apa12)。 イノシトール・トランスポーター(既に2種同定済み)のも機能解明に取り組んだ。このために必須となる放射標識D-chiro-inositolの購入が不可能となったため、当初想定していなかった当該化合物の合成生産を自ら行うことを余儀なくされたが、首尾よくこれを成し遂げることができたので、本年度は実の解析を実行し、以前にマイナーなイノシトールトランスポーターとして同定されていたIolFが少なからずD-chiro-inositolの取り込みに関与することを見出すに至った(論文投稿済み)。 パスウエイデザインを施した枯草菌によるD-chiro-inositolのバイオコンバージョン生産は、リン酸欠乏ストレスを引き起こす。このストレスと細胞内のNAD+/NADHバランス変動の相関を検討したが、NAD+/NADHバランスはD-chiro-inositolのバイオコンバージョンの効率には影響を与えるがストレス発生には影響しないことが判明した。本年度はメタボローム解析を試みたが、条件設定などの技術導入自体が調わず今だデータを得ることができず、この研究課題は今後に残さざるを得ない結果となった。
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