枯草菌の緊縮転写制御には、窒素代謝制御因子であるCodYに依存性のものと非依存性のものと2種の制御系があることを明らかにしていた。後者は、アミノ酸飢餓等により活性化するRelAが合成するppGppによるIMP脱水素酵素の阻害により引き起こされるGTP濃度の低下とATP濃度の上昇が、直接RNAポリメラーゼの転写開始反応を転写開始点のプリン塩基種に依存して制御する。このヌクレオチド濃度に依存する制御系は、転写開始部位(+1、+2)にAがありGがなければ正に、GがありAがなければ負の制御されることを塩基置換実験により明らかにした。 この緊縮転写制御ネットワークを解明しようとDNAマイクロアレイ解析とメタボローム解析を遂行したところ、プリンヌクレオチド濃度に依存した緊縮制御が広範なRNAあるいは蛋白質遺伝子の発現制御に関わっていることが明らかになった。この緊縮制御では、リボソームRNAと蛋白質が極度に抑制され、アミノ酸合成系遺伝子が活性化される。これにともない炭素代謝では、グルコースの取り込み系とアセチルCo-A合成系が抑制され、菌体内に蓄積するピルビン酸を分岐鎖アミノ酸、アセトインやオキサロ酢酸への合成系を活性化することにより、その蓄積を解除していた。この転写制御の基層を形成すると思われる転写制御因子の絡まない緊縮制御が、枯草菌たぶんグラム陽性の低GC細菌全般の緊縮制御に大きな役割を演じていると推察できた。さらに、グルコース取り込み系オペロンであるptsGHIの転写開始点GをAに改変した株を作成した。この改変株では、緊縮制御下でもグルコースの取り込み能が低下しなく、さらに分岐鎖アミノ酸合成がカタボライト活性化を受け、分岐鎖アミノ酸合成が10倍以上高まっていた。
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