脳はその活動のエネルギー源を、血中から取り込んだグルコースに専ら依存しているが、脳の細胞にグルコースがどのように取り込まれ利用されるかについては不明の点が多い。代表者らは、活動する神経細胞におけるグルコース輸送のダイナミズムを細胞レベルで明らかにしていく為、まず蛍光標識したD-グルコース誘導体2-NBDGがグルコーストランスポーター(GLUT)を介して、生きた単一哺乳動物細胞内に取り込まれることを報告し、グルコースプローブとしての有用性を示した。しかし2-NBDGはGLUTに結合解離し、GLUTを通過して進入し、細胞内で酵素によりリン酸化されるのみならず、もしリン酸化されなければ再び流出する他、ギャップ結合を介した細胞間移動もおきる。更に消光・分解や、細胞膜への非特異的吸着の程度も正しく評価する必要があり、真の取り込みをどのように定量化するかが課題となっていた。そこで対照として細胞が利用できないL型の蛍光グルコース誘導体2-NBDLGを新規開発し、2-NBDGあるいは2-NBDLGを神経細胞にbath投与、もしくはパッチクランプ電極から投与しながら共焦点顕微鏡でリアルタイムに計測する方法を開発した。それにより2-NBDGの細胞膜への非特異吸着や、短時間の光照射による退色や分解は非常に小さいことなどが定量的に評価可能となった。また更に2-NBDGと異なる赤色の蛍光を有するL型グルコース誘導体2-TRLGを合成し、2-NBDGと2-TRLGを同時に使用して特定波長範囲における両者の比を用いることで、パッチクランプしている細胞から自発発火を記録しながら、2-NBDGが細胞内に取り込まれる際の蛍光強度の増加を定量的に表す方法を開発した。これにより神経活動とグルコース取り込みの同時計測が可能となった(山田他、特許願2009-185010;山田他、PCT/JP2009/064053)。
|