研究概要 |
聴皮質の機能を理解するためには, 聴皮質の情報表現を明らかにすることに加えて, 様々な学習による聴皮質の可塑性を体系的に明らかにしていくことが鍵になる. 知覚・認識能力は学習とともに向上するが, このような学習の神経基盤を考察するために, ラットの音のオペラント条件付けで, 学習到達度と聴皮質の情報表現の相関関係を調べた. その結果, 学習途上群では, 背側で周波数局在性を示す領域が増大し, その後, 学習成立群では腹側から縮減することがわかった. ラットでは, 聴皮質の背側部が一次聴覚野, 腹側部が二次聴覚野に相当することから, 実験結果は, 学習到達度に応じて, 一次聴覚野が先に変化し, それに二次聴覚野が続くことを示唆する. このような可塑性の順序や変化様式(領域の増大と縮減)の差異は, 両領野の学習時に果たす機能が異なることを反映していると考える. 音環境の変化を検出するメカニズムとして, 音の質感の変化で誘発される聴皮質のMMNを64点の微小表面電極アレイで調べた. 音刺激として, 発生確率が異なる様々な協和音, または,不協和音を一定の時間間隔で提示した. その結果, ラット聴皮質において, MMNは質感の差異でも出現することを示した. さらに, 協和音によるMMNは, 不協和音によるMMNよりも大きく, 質感の差異によるMMNは, 刺激音に依存した非対称性を有することを示した. これらの結果は, 協・不協和音のような質感の差異は, 音環境の変化を察知するために, 重要な意味を持つことを示唆する. また, MMNの非対称性は, 音環境変化に対する重みづけであり, MMNが音環境の変化を察知する神経基盤と深く関わると考える.
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