研究概要 |
本研究代表者は、抑制性神経伝達の調節について、既にいくつかの論文で議論してきた(Neuroreport. 2006; 17: 1847-, Cereb Cortex. 2005; 15: 291-, J Neurosci Res. 2006; 84: 1771-)。その一連の研究の過程で気づいたことをもとにし、記憶や学習において海馬などですべての神経細胞が同様に活性化されるのではなく一部が選ばれて活動するという作業仮説の元に研究し、支持する結果を得てきた。(Neurobiol Learng Mem. 2007; 88: 409-)。本研究ではスパインの形態でさらに、その仮説を支持する結果を得た。神経細胞スパイン形態変化は、近年、シナプスの可塑的機能変化を反映する可能性が考えられている。そこで、Thyl-mGFP TGマウス個体を新規環境に15または60分暴露し60分時点での海馬CAl錐体細胞のスパイン形態を解析した。この際、Arc(活動した神経のマーカーとされるタンパク質)発現を指標に、各個体で神経細胞群を二分することで初めてコントロール(新規環境暴露なし)に比べ60分群で差異が見いだされた。すなわち、Arc陽性細胞で大きなスパインが数%ふえ、小さいもの30%程度に縮小または消失の変化があったと推測できた。新規環境探索が記憶につながるか否かは議論があろうが、本実験結果からは、少なくともある種の記憶は、一部の(Arc発現)神経細胞の数%のスパイン膨化と並行していると考えられ、日常的記憶にかかわる変化が、一部の神経細胞によるわずかなものである可能性を示唆した。この発見の論文はCereb Cortex. 2009 Epub ahead of print, PMID: 19240139に発表され、Dr.Mayfordの推薦により、Must read paper(6.0) in Faculty of 1000 of Biology(BioMed)に選ばれた。他にもいくつかの研究を展開した。BDNFは歯状回から海馬CA3に投射する苔状線維の走行に対し束状化を促し、BDNF発現部位とは異なる部位に投射するよう作用していると考えられた。この発見の内容はMol Brainに発表した。
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