網膜における律動性応答の発生機構を検討した。カエル網膜スライス標本に細胞外電気刺激を局所的に与えたところ、双極細胞や神経節細胞に多峰性の応答が発生した。そこで、双極細胞から神経節細胞へのシナプス伝達を解析するために、キンギョ網膜スライス標本にホールセルクランプ法を適用し、大きな軸索終末部を持つMb1型双極細胞(Mb1-BC)と神経節細胞から同時記録をおこなった。Mb1-BCに数10ミリ秒の短い脱分極パルスを与えると、神経節細胞から100ミリ秒にも及ぶ持続時間の長い興奮性シナプス後電流(EPSC)が記録された。このEPSCは、抑制性のシナプス伝達を阻害すると、振幅及び持続時間が更に増強された。長いEPSCはギャップ結合を阻害すると短くなること、Mb1-BC間にトレーサー・カップリングが観察されることから、Mb1-BC間の電気シナプスが長いEPSCの発生に関与することが示唆された。隣り合うMb1-BCから同時記録した結果、ギャップ結合は樹状突起間にあること、ギャップコンダクタンスは線形で電位依存性や整流性を示さず、ハイカット・フィルターの特性を持つことが明らかとなった。また、隣り合うMb1-BC間で、膜電位の揺らぎは同期していた。Mb1-BCに脱分極性電流を注入するとCaスパイクが発生し、これは近接するMb1-BCに10ミリ秒程度の遅れを持ってCaスパイクを発生させた。2個のMb1-BCと1個の神経節細胞から3細胞同時記録をおこなった結果、Mb1-BCで発生したCaスパイクは電気シナプスで結合したMb1-BCにCaスパイクを発生させ、これらのMb1-BCからの化学シナプス入力を受ける神経節細胞に持続時間の長いEPSCを引き起こすことが明らかとなった。この持続時間の長いEPSCはアマクリン細胞による抑制性入力によって律動性応答に変換される可能性が示唆された。
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