研究概要 |
本研究の目的はラット精子幹細胞での遺伝子改変により、神経疾患研究のためのモデルラットを作成する技術の確立にある。本年度の研究はその基礎になる条件検討も行いながら進めた。第一に、ラット由来の精子幹細胞(Germline Stem, GS細胞)を樹立し、1年以上の期間培養し、培養開始後に異なった時間で精巣への細胞移植を行い精子形成能を確認した。これまでのところ最長1年2ヶ月のものを精巣内移植後、顕微授精を行いラット産仔を得ることが確認された。第二に、この方法で作成された仔に巨大胎盤や発育異常が観察されたため、ゲノムインプリンティングには異常がなかった。第三にGS細胞への遺伝子導入後の薬剤選択の条件検討を行った。初期の実験ではほとんどクローンがとれない状況だったが、現在では40ug/mlの濃度のネオマイシンで選択すると薬剤耐性クローンを樹立するプロトコールを確立することができた。これらの条件を用いて遺伝子トラップベクター(ROSAb-geo)をレトロウイルスによりGS細胞に導入し、トラップクローンの樹立に成功した。挿入遺伝子座を5'RACE法により同定し、神経系への発現が認められるSt8sial遺伝子に挿入の認められたクローンにつき、精巣内移植および顕微授精により個体作成を行った。サザンブロッティングによりゲノタイプを解析し、ヘテロ変異同士の交配により、ホモの産仔が得られた。しかしながらホモ個体の脳組織のRNAを用いてSt8sia1遺伝子の発現を調べたところ、遺伝子発現の減弱はあるもののトラップベクターの挿入により完全に発現が抑えられていないことが分かったため、現在は別のクローンを個体化し、ホモ作成を試みている。
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