研究概要 |
トリ層状核(NL)神経細胞はシナプス入力の同時検出器として働き, 両耳に到達する音の時間差(両耳間時間差 : ITD)を検出することにより音源定位に関わる. NLには音の周波数に対応した機能局在があり, ITDは特徴周波数(CF)毎のNL細胞により検出される. 本研究では, ヒヨコを用いてNLの機能解析をCF領域毎に行うことにより, 音源定位の神経回路機構を明らかにすることを目指す. これまで, 申請者はNL細胞の軸索におけるNaチャネル分布がCFに応じて異なり, 高CF領域ほど細胞体から離れていることを報告している。 本年度はその機能意義を電気生理学的と計算論的に検討した. NLの高CF領域の細胞ではシナプス入力によって流入するNaイオンが細胞内に蓄積することが予想される. このため, 高CF領域の細胞でNaチャネルが細胞体から離れて分布することの理由の一つとして, 細胞内Naイオン濃度変化の活動電位発生に対する影響を減らすためである可能性が考えられる. まず, 高濃度のグルタミン酸(10mM)を細胞体へ圧投与することのNa電流と活動電位への効果を検討したところ, 両者はグルタミン酸投与により抑制されたが, 高CF領域の細胞ではその効果が小さかった. さらに, コンピューターシミュレーションにおいても, 細胞体のNaイオンのNaイオンの平衡電位を30mV変化させた場合, Naチャネルが細胞体の近くにある場合(0μm)には活動電位発生が抑制されることが分かった。来年度はさらに, 光学的手法により高頻度シナプス入力による細胞内のNaイオン濃度変化を計測することにより, さらに上記仮説を検証する予定である.
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