本研究では経験依存的神経可塑性が個体脳内においてどのように具現化され、成熟した神経回路網を構成しうるのかについて多角的に検討することを目的としている。このために、皮質錐体細胞において逆伝搬活動電位の責任分子と考えられている、樹状突起に存在する電位依存性ナトリウムチャネルの発現を抑制するためのレンチウイルスベクターを作成し、その抑制効果について確認した。2008年に完成させたウイルスベクターはラットの配列を元に作成してあったために、マウスでの効果を確認するべく、分散培養およびスライスを用いた電気生理学的手法により、活動電位の抑制を観察した。細胞体における活動電位抑制に関しては、現在までのところラット試料でみられたほどの効果は確認できず、最大で80%程度の抑制にとどまっている。ウェスタンブロッティング法による定量でも同様にラットでみられた程の抑制効果はみられず、50-60%程度の抑制にとどまった。今後はカルシウムイチーシングにより、樹状突起への逆伝搬活動電位がどの程度抑制されているのかについて直接的な検討を行っていく予定である。 また、一方で抑制効果を時空間的に制限する目的で、ロドプシンタンパク質を発現させるレンチウイルスベクターも作成しており、同ウイルスベクターが神経細胞に感染し、光刺激により神経活動を制御可能か否かについて確認を進めている。そこで来年度以降は成体のスライスおよび個体脳において、神経可塑性現象に逆伝搬活動電位がどのような役割を果たしているのかについて検討を行いたいと考えている。
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