大脳皮質-基底核を連関する神経回路は、運動制御、運動学習、強化学習などの重要な脳機能を媒介する。線条体や大脳皮質には、形態的および電気生理学的に異なるさまざまなタイプのGABA作動性介在ニューロンタイプが存在し、神経回路の活動を協調的に制御することによって行動の調節に必須の役割を担っていると推察される。しかし、個々の介在ニューロンタイプが一連の行動課題の中でどのような役割を担っているかについては十分に理解されていない。本研究では、パルブアルブミン(PV)を含有し、first spiking(FS)細胞と呼ばれるGABA性の介在ニューロンタイプに着目し、線条体あるいは大脳皮質に局在するニューロンタイプの行動生理学的な役割の解明と各脳領域での局所神経回路を制御する仕組みの解明に取り組む。平成20年度は、イムノトキシン細胞標的法を用いて標的ニューロンの除去を誘導するために、PV遺伝子座に、ヒトインターロイキン-2受容体αサブユニットに黄色蛍光タンパク質を連結した融合遺伝子(IL-2Rα/YFP)をノックインした遺伝子改変マウスを利用し、このマウスの線条体および内側前頭前野皮質(mPFC)における導入遺伝子の発現をinsitu hybridizationおよび免疫組織化学法を用いて解析した。遺伝子改変マウスの小脳においてのみ低レベルのシグナルが観察されたが、線条体とmPFCの脳領域では、顕著な導入遺伝子の発現を観察することはできなかった。これは導入遺伝子の挿入によってPVの細胞特異的な遺伝子発現に影響が生じたものと考えられた。PV陽性ニューロン特異的にIL-2Rα/YFP遺伝子を発現させるために、FS細胞の別のマーカーであるKv3.1チャネル遺伝子を利用することとした。Kv3.1遺伝子を含むbacterial artificial cloneを用いてIL-2Rα/YFP遺伝子カセットを導入し、複数のトランスジェニックマウス系統を作製した。今後、これらの系統における遺伝子の発現を解析し、イムノトキシン細胞標的法を用いたFS細胞の行動生理学的な機能の解析に応用する。
|