平成20年度に引き続き、てんかんモデルマウスのtottering(tg)マウスを用いて、大脳基底核がspike-and-wave discharge (SWD)発生において果たす役割を検討するために、脳スライス標本及びin vivoの実験を行った。tgマウスでは過分極活性化陽イオンチャネル(HCNチャネル)電流が減少していたため、野生型マウスの視床下核でHCNチャネル阻害を行い、阻害前後で細胞膜の興奮性を比較したところ、HCNチャネル阻害により興奮性が増強することが判明した。これらの実験から、tgマウスの視床下核ではHCNチャネル電流の減少を一因として、細胞の興奮性が増強していることが判明した。さらに深部脳刺激で視床下核の活動を制御したところ、SWDの発生、持続時間に大きな影響を与えることが示された。in vivoでHCNチャネル電流の減少がSWDの発生にどのような影響を与えているか検討するために、視床下核にHCNチャネルの阻害剤であるZD7288を注入した。その結果、SWDの平均持続時間が伸びることが判明した。その一方で、HCNチャネルの電位依存性を脱分極側に変化させるLamothgineを注入し、HCNチャネルを活性化させたところ、SWDの平均持続時間は短縮するという結果が得られた。 これらの実験より視床下核のHCNチャネルを調節することで、SWDの平均持続時間が影響を受けることが判明した。この結果は大脳基底核回路がSWDのリズムの安定化に関与していることを示唆していると考えられる。
|