研究課題
アストロサイトに凝集体が形成されるAlexander病モデルマウスの脳の機能を調べれば、アストロサイトのどのような異常が、どのような脳機能に関与するか明らかにすることができる。このコンセプトの元、我々はAlexander病モデルマウスの網羅的行動解析を行ったところモデルマウスでは作業記憶が優れているという興味深い結果を得た。Alexander病モデルマウスでは特に海馬領域で凝集体形成が多いこと、作業記憶は海馬依存的な行動であることから、海馬に焦点をあててその電気生理学的な性質を調べた。モデルマウス海馬スライスにおいて野生型ではLTPに至らない100 Hz10発の刺激でもLTPが起こることを見いだした。興奮性シナプス伝達に変化は無いがGABAの放出能力が低下していたことから、LTPの起こりやすさは抑制系の抑制によって生じていると結論した。抑制系の抑制は低濃度のアデノシンを潅流液に追加した場合でも観察される。アストロサイトからATPが放出されること、そのATPは速やかにアデノシンに変換されることから、モデルマウスのアストロサイトからATPが多く放出されているのではないかと仮説を立て、実験を行った。ATPの自発放出をルシフェリン:ルシフェラーゼ反応による発光としてとらえ、その放出頻度を比較したところ、モデルマウスでは野生型よりも1.5倍多くATPを放出することがわかった。以上のことから、Alexander病モデルマウスでは凝集体形成によってATPの放出が増加し、それがすみやかにアデノシンへ変換され、抑制性神経をtonicに抑制することによって海馬神経回路の興奮を高め、海馬依存的な学習を促進することが明らかになった。本研究によってグリオトランスミッターATPの放出増加が作業記憶を元進にいたる過程、すなわち分子から行動までを統合的に理解することが出来た。
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