本研究課題は、理論と実験の融合によって、大脳皮質における抑制回路が個別錐体細胞に対する単純な活動抑制だけでなくむしろ積極的に大脳皮質局所回路の自己組織化に関与し、それらを調整しているということを明らかにすることを目的としている。特に、再帰結合回路内における抑制入力の結合様式が、抑制を受ける錐体細胞の応答特性と自己組織化にもたらす影響を明らかにすることを目指す。本年度は、入力情報の分離・統合と関連した海馬CA1領域細胞群の理論モデルに関する研究を行った。この研究は東京大学の池谷裕二博士、理研の木村梨絵博士との共同研究によって進められた。海馬CA1領域から多細胞同時カルシウムイメージングによって得られた集団神経活動と理論モデルを組み合わせることによって、この領域における論理演算子様の活動を示す神経細胞の分布が、どのような回路結合によって実現され、どのような可塑性によって分布変化を実現させるのかを調べた。 CA3興奮性細胞間およびCA3興奮性細胞からCA1興奮性細胞へのシナプスにはスパイクタイミング依存可塑性を、CA3興奮性細胞およびCA1興奮性細胞からCA1抑制性細胞へのシナプスにおいては、それぞれシナプス後細胞の発火頻度に依存したHebbian/anti-Hebbian可塑性を導入し、このような神経回路モデルにおいて、論理演算子様の分布の刺激時間間隔依存性と可塑性誘導実験の結果をよく再現できるシナプスパターンと可塑性ルールの組み合わせを調べ、特に抑制細胞と関連したシナプスが、情報の統合・分離を実現する回路の形成にどのように関与するのかを明らかにした。
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