本研究課題は、皮質神経回路の入力応答特性と自己組織化における抑制回路の動的な役割を明らかにすることを目的としており、当該年度は主に、CRESTの矢崎陽子博士、ハーバード大のヘンシュ貴雄博士らとともに視覚野局所回路に関する研究を行った。両博士は、マウス一次視覚野両眼性領域の興奮性細胞における生体内細胞内記録を行い、特に細胞内ピクロトキシン注入による抑制シナプスのオンオフ状態それぞれにおける活動を比較することによって、興奮性細胞の眼優位性活動に対する抑制回路の役割が、単眼遮蔽期間の長短に応じて動的に変化することを明らかにした。代表者は、その実験データに基づいた視覚野回路モデル研究を行うことによって、抑制回路の機能変化に必要となるシナプス結合強度を明らかにするとともに、複数タイプの回路モデル間比較から、眼優位性シフトを実現する局所回路の様式を明らかにした。具体的には、介在している抑制細胞への興奮性シナプスにおける可塑性が必要であることと、そのシナプス投射が両眼性であること、さらにはそれらシナプス強度の眼優位性が双方向的に変化する必要があることを明らかにした。実際に、矢崎博士による抑制細胞への生体内細胞内記録を通じて、抑制細胞の応答が両眼性であり、その眼優位性活動が双方向的に変化することが確認された。さらに研究代表者は、近年明らかになっている新皮質抑制細胞への興奮性シナプスにおけるスパイクタイミング依存可塑性と、長期遮蔽に伴ったシナプス減弱が組み合わさることによって、抑制細胞の双方向的な眼優位性シフトを実現できることを明らかにした。これらの結果は、臨界期可塑性のメカニズムに抑制回路の役割という視点から迫るものであり、弱視の治療などへの応用が期待されるものである。以上の研究成果は、国際学術誌を通じて誌上発表が行われた。
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