研究概要 |
ヒトにおける情動および行動の機制に関する脳内機構を解明する目的で, (1)パーキンソン病患者を対象にして欺瞞行動に関する行動神経学的および脳画像研究, (2)解離性健忘症例を対象にした機能的MRI研究, (3)プラダー・ウィリー症候群を対象にした行動神経学的および脳画像研究を行った. (1)では記憶課題を用いて, パーキンソン病患者では嘘をつく能力が健常者より低下していて, その程度は, 安静時のブドウ糖代謝からみて, 右側の前頭前野機能の低下と関連していることを見いだした. (2)では過剰な抑制が生じていると考えられる解離性健忘症例を対象にしてfMRIを用いて過剰な記憶の抑制の神経基盤を探索した. 再認課題遂行中にMRIを撮像し, 想起可能であった素材と想起しなかった素材との間で脳活動の差を求めたところ, 思い出さない時に右前頭前野が賦活され, 右海馬および右視床の活動は逆に抑制されることを見いだした. (3)ではプラダー・ウィリー症候群多数例を対象に, 前頭側頭葉型認知症のために開発された構造化インタビューを質問紙法に改変したツールを用いて調査し, プラダー・ウィリー症候群では前頭側頭葉型認知症と同様の常同行動, 食行動異常が認められることを定量的に示した. これらの結果から, 社会的な行動である欺瞞という抑制行動, 過剰な記憶の抑制である解離性健忘, さらに常同行動や食行動の抑制のいずれにも前頭前野機能が関わっていることが示唆された.
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