研究課題
情動の生成において重要な役割を果たしている扁桃体内における分子レベル、細胞レベルでの情報伝達機構については、十分に解明されていない。我々が近年同定したNPBとNPWの受容体GPR7は扁桃体中心核に局在しており、情動との関連が示唆されるが、この神経ペプチドの生理的役割はよくわかっていなかった。そこで、GPR7欠損マウスをもちいて行動テストバッテリーによる行動異常の検索を行った。GPR7欠損マウスは空間記憶に問題ないものの、不安行動の亢進、文脈による恐怖条件づけに障害が見られることが明らかになった。resident-intruderテストにおいて、GPR7欠損マウスはintruderマウスに対して明らかな異常行動を示すことを見いだした。最初の接触までの時間が有意に短く、また接触時間が有意に長かった。このGPR7欠損マウスにおいて、強くかつ長期に持続する行動量、心拍数、血圧の上昇が観察された。このことからGPR7は扁桃体からの出力を抑制性にコントロールしていることが示唆された。またヒトのGPR7遺伝子に機能低下型のSNPを見いだした。これらはヒトの情動の生成に影響を与えている可能性がある。そこで、各遺伝子型の被験者をあつめて、表情認知課題をもちいた機能的MRI試験をおこなった。扁桃体の活動をBOLD信号で評価したところ、404T型のSNPをもつ今テロ接合体の被験者は、404A/Aホモの被験者と明らかに違う応答性をしめした。404A/Aの被験者は中性表情に比較して恐怖表情に顕著なBOLDシグナルの増強を見たが、404A/Tヘテロの被験者は中性表情にも大きなBOLD信号の増加がみとめられ、恐怖との差が見られなかった。このことから、GPR7はヒトの表情認知にともなう扁桃体の活動性にも大きな影響を持っていることが示唆された。
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