研究概要 |
オキシトシン受容体は海馬および扁桃体に豊富に存在し、これら領域における生理作用について注目されている。近年オキシトシンは妊娠・出産時に抗不安作用を有することが動物実験で明らかにされているが、その分子機構については不明である。本研究は、オキシトシンによる抗不安作用の分子メカニズムをRGS2の発現に注目して解明した。 1. 扁桃体を含む脳スライスにオキシトシンを潅流し、扁桃体におけるRgs2の発現をwestern blotting法にて検討した。結果 : 潅流30分後よりRgs2の発現が亢進していた。 2. 産後授乳中母親マウスでは、バージンマウスと比較して産後3日後には著明なRgs2発現の亢進が見られた。一方産後授乳を行っていないマウスのRgs2発現は、授乳マウスと比較して明らかな発現減少が見られた。すなわち、授乳によりRgs2の発現が増加することが示唆された。 3. 現在、オキシトシン受容体のアンタゴニストをマウス扁桃体に注入し、その後拘束ストレスを与え、Rgs2の発現について検討している。結果 : 予備実験では、同アンタゴニストを注射したマウスでは、Rgs2の発現がコントロール群と比較して低下していた。 4. Rgs2ならびにオキシトシン受容体ノックアウトマウスの作製に成功した。両マウスともヘテロ体は発育に問題なく成長している。現在、これらマウスのホモ体を作製中である。 5. 最近、不安の強いマウス種とそうでないマウス間において遺伝連鎖解析が進み、QTLとして同定されたのがRgs2遺伝子である(Nat Genetics 36, 1197(2004))。しかしRgs2の上流ならびに下流の情報伝達経路はまったく不明である。我々の結果では、マウスの妊娠・出産→オキシトシンの分泌増加→扁桃体におけるRgs2の発現が増加→抗不安作用という仮説が証明されつつある。
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