本年度は、衝動性の神経基盤を明らかにするために、健常者およびセロトニンの機能低下がみられるうつ病患者を対象として、以下の通り実施した。 1. 申請者らは、セロトニンは報酬予測における時間スケールを制御し、セロトニン低下は長期報酬予測機能を低下させることを明らかにしてきた。しかし、これまでの報酬予測課題はうつ病患者では難易度が高く、課題を工夫する必要があった。そこで、本年度は、うつ病群においても実施可能な課題とするために、使用する刺激と課題のパラメータを単純化した、簡易版の報酬予測課題を作成した。 2. 簡易版報酬予測課題を用いて、健常者を対象に、行動実験を行った。行動データを強化学習モデルに当てはめて、割引率γを推定した。その割引率γと抑うつとの単相関分析を行ったところ、割引率γと抑うつとは正の相関関係を示した。また、長期報酬選択率と抑うつとは負の相関関係を示した。抑うつ症状は、セロトニンに関わる割引率に影響を与え、その結果として、長期的な報酬予測機能が低下すると推測できる。 3. 簡易版報酬予測課題を用いて、健常者を対象にfMRI実験を行った。行動データを強化学習モデルに当てはめて、割引率γと実験協力者の報酬に対する予期を推定した。その推定された報酬予期と相関する脳部位を検討したところ、線条体に賦活がみられた。そして、各実験協力者における割引率γの値と賦活した線条体の部位との相関をとると、割引率γが高くなるほど背側領域での賦活が増加した。これは、申請者らのこれまでの研究と一貫する結果であり、実験協力者ごとに推定した値でも同様の結果が再現できた点が新しい点である。今後、本課題をうつ病患者や摂食障害患者などの衝動性を示す患者群において実施し、脳内セロトニン機能との関係を検討する。
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