今年度においては、我々は、観察角度をまたいだ物体識別学習に関わる下側頭葉皮質細胞の電気生理学的反応を調べた。6つの物体セットは2つずつ以下の3通りに分けた。(1)物体弁別課題において、物体の変化を含む刺激像を同じ物体の観察角度変化から区別することが必要であり、この区別は物体の観察角度変化をまたいだ認識と等価であった。(2)画像弁別課題においては、物体の弁別は常に同一観察角度で行うので、同一観察角度で異なる物体の特徴を差別化する必要があるが、観察角度変化をまたいだ認識ではなかった。(3)画像暴露課題は基本的に(2)と同じであったが、使われる第二の物体は同じ物体セットから選ぶではなく、図形特徴が全く異なるダミーの画像を用いた。これによって、画像をサルに暴露するが、同一観察角度で同じ物体セットにある物体の特徴を差別化する必要もなかった。以上のようなタスクで弁別パフォーマンスが飽和するまでそれぞれの画像を均等に暴露するように調整しながら数カ月訓練した後、記録は前中側頭溝(AMTS)と後中側頭溝(PMTS)の間を中心に行った。視覚刺激に反応した47個の細胞の内、10個は物体認識課題、8個は画像識別課題、13個は画像暴露課題に使われた物体セットに含まれた画像のどれかに反応した。観察角度の変化或いは類似度の変化による影響を検討するために、同じ物体の異なる角度の像に対する反応の分散と同じ観察角度の異なる物体に対する反応の分散を計算し、比較した。同じ物体の異なる角度像に対する反応の分散より同じ観察角度の異なる物体に対する反応の分散が大きかった細胞は、物体弁別課題で学習した物体セットに反応した10個中6個、画像暴露課題で学習したセットに反応した13個中2個、画像弁別課題で学習したセットに反応した8個中3個であり、それぞれ60%、15%と38%であった。
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