本研究の目的は、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)ニューロンの異常によりストレス反応の異常をきたすことを証明し、さらに、PrRPがストレス反応を維持する機構を明らかにすることであった。本年度は、まず、ストレス反応における内因性のPrRPの働きを明らかにする目的で、PrRP遺伝子欠損マウスを用いてストレス反応に異常があるかを検討した。PrRP遺伝子欠損動物は、条件恐怖刺激に対するオキシトシンの分泌反応が減弱していた。また、ストレス刺激負荷によるエネルギー消費量上昇反応が、PrRP遺伝子欠損動物では減弱していた。さらに、ストレスに対する摂食抑制反応もPrRP遺伝子欠損動物で減弱していた。一方、条件刺激に対するすくみ行動が促進していた。また、PrRP遺伝子欠損動物に慢性ストレスを負荷すると、野生型の動物に比較して欝様行動が強く観察された。従って、PrRPは急性と慢性のストレス反応に重要な因子であることが示唆された。 PrRを脳室内に投与すると不安行動が減弱する。そこで、次に、PrRPの不安行動減弱作用における作用部位を明らかにする目的で、PrRPを分界条床核、視床下部室傍核、視床下部背内側核、扁桃体の脳内各部位に投与する実験を行った。その結果、視床下部背内側核がPrRPの抗不安作用の作用部位の候補であることが示唆された。さらに、PrRPを投与すると視床下部のオキシトシン産生ニューロが活性化されることがわかった。さらに、オキシトシン産生ニューロンの下流を探索する目的で、オキシトシン受容体を発現する細胞の探索を行った。その結果、縫線核のセロトニン産生ニューロンの多くがオキシトシン受容体を発現することを見出した。さらに、オキシトシンの抗不安行動作用がセロトニン受容体アンタゴニストで阻害された。これらのデータは、オキシトシン産生ニューロンの下流にセロトニン産生ニューロンがあるという考えに矛盾しないデータである。
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