研究概要 |
自然言語の文では, 時系列上で離れた語彙項目が, 隣接する語彙項目よりも強い意味的結びつきを持つことがある。これは「不連続依存」と呼ばれる現象で, ヒト種固有の脳機能である。本研究は日本語の不連続依存が誘発する事象関連電位の測定を通して, ヒト固有の信号系列処理とその神経基盤を考察する。 本年度はまず(1)(2)の様に, 従属節目的語を文頭に置いた不連続依存文について文法性判断を問う行動実験を行い, (2)の文法性が(1)よりも遙かに劣ることを見いだした。 (1)筆箱を美幸は[哲夫が盗んだと]クラスメートに言い張った。 (2)*脚を上田は[岩井が骨折したとき]救急病院に連絡した。 節境界を越える英語の不連続依存については, 従属節の統語的特性が制約を与えることが知られていて, 本研究は日本語においても, 目的語名詞句(1)より副詞節(2)の方が強い制約を課していることを実験的に示した, ほとんど初めての研究である。ただ近年, 不連続依存を統語構造ではなく実時間文処理における作動記憶制約に還元しようとする立場があり, 本研究では不連続依存に対する作動記憶制約と統語構造の影響をERP計測によって峻別する予定である。(1)(2)のタイプの文を分節毎にRSVP法で視覚提示し, 各文節位置における誘発電位を測定する実験が進行中で, 研究成果は本年夏の神軽科学大会で報告する予定である。
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