[目的]生物の意思決定は期待される報酬量だけでなくそれを得るための「コスト」にも大きく左右される。本研究ではセロトニン系が報酬の計算、さらにこれがコストの情報と統合されるメカニズムであるという仮説を検証する。[方法]コストと報酬量の両方を考慮した眼球運動課題を訓練したサルを用いて、セロトニン細胞を含む背側縫線核(DRN)細胞の単一神経活動を記録した。この課題では眼球運動のターゲットは右か左であり、それぞれが異なるジュースの量(報酬)または異なる報酬を得るための遅延時間(コスト)と関連付けられている。[結果](1)DRN細胞の神経活動は報酬量により変化する。DRN細胞の半数は、神経活動は、得られる報酬の絶対量をコードした。残りの半数は絶対量ではなく、もう一つのターゲットの報酬量との関係により神経活動が変化した。(2)DRN細胞の神経活動は遅延時間そのものだけでは変化しにくい。(3)しかし、遅延時間中の神経活動はその後に得られる報酬の量に強い変化を受ける。しかも、報酬の影響をうける遅延時間は、眼球運動の後にある場合であり、前(記憶依存性眼球運動課題の記憶期間とする)にある場合はあまり報酬をうけなかった。[考察]DRNの単一細胞レベルで報酬とコストの統合が行われることが明らかになった。今後、同じ課題でドパミン細胞の活動変化との比較、ドパミンとセロトニンの投射先である基底核線条体における両神経伝達物質の役割を薬理行動学的に検討する予定である。
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