大脳皮質ニューロンは、興奮性錐体細胞と、GABA作働性の抑制性介在細胞からできている。GABA細胞は形態特徴・発火様式・分子発現から多種類に分けることができるが、これは錐体細胞の入力部位や出力先の多様性に対応するためだと考えられている。複数の精神疾患においては、GABA細胞サブタイプに特異的な変化が前頭皮質で報告されている。しかし、多様なGABA細胞サブタイプの機能分化は殆ど分かっていない。前頭皮質の5層GABA細胞は、パルブアルブミン陽性のファストスパイキング(FS)バスケット細胞とソマトスタチン陽性のマルティノッティ細胞に大きく分けることができる。今回、この二種類のGABA細胞と錐体細胞の結合関係を脳切片標本での同時ホールセル記録法で調べた。FS細胞とマルティノッティ細胞は、細胞内通電による発火パターンと、細胞内染色による軸索・樹状突起・スパイン分布パターンから同定した。片方の細胞発火によって、もう一方の細胞に引き起こされる興奮性または抑制シナプス電流の誘起確率・振幅を解析した。その結果、5層FS細胞と錐体細胞結合の多くは両方向性であったのに対して、マルティノッティ細胞と錐体細胞では双方向結合は殆ど見られなかった。双方向結合していたFS/錐体細胞ペアーの興奮性・抑制性シナプス電流は一方向結合のものと比べて有意に大きかった。従ってFS細胞が錐体細胞と相互抑制興奮結合を発達させているのに対して、マルティノッティ細胞は一方向性の逐次的抑制回路を作ることが考えられる。FS細胞に十分な興奮入力があるとガンマ振動が引き起こされるモデルが提唱されていることから、このFS/錐体細胞の選択的相互結合が、錐体細胞サブグループに選択的振動入力を与える機構に使われているかもしれない。本研究によって、前頭皮質5層局所回路における抑制性細胞の機能分化の一端を明らかにすることができた。
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