研究概要 |
順行性標識法を用いてラット歯状回における縦走性線維投射系を調べた結果、歯状回分子層に投射する縦走性連合線維システムが少なくとも二種類(Type I, Type II)あることが明らかになった。Type I システムは歯状回分子層深部へ線維を送る線維系で、海馬歯状回の中隔-側頭葉方向のほぼ全長にわたり分布するが、起始細胞から長軸方向へ約1mm以内のレベルではこの投射は余り見られず、注入部位より中隔・側頭葉方向に1mm以上離れたレベルから終末の密度が高くなる。そして神経終末は狭い層に高密度に分有している。他方、Type II システムは歯状回分子層表層部へ終止する線維系で、分布は起始細胞から縦方向に数百ミクロン以内に密に分布し、それより遠方への投射は極めて少ない。また、神経終末は幅広く比較的散在性に分布している。歯状回分子層表層部には嗅内野からの貫通線維束が終止するのに対し、歯状回分子層深部には貫通線維側は終止せず歯状回門からの交連線維、連合線維が終止する。他方、逆行性標識から、縦走性線維の起始細胞は歯状回門の細胞群であることが判った。PHA-L注入実験から,Type I 線維の起始細胞は分子層には樹状突起を出さない細胞、すなわち苔状細胞であると考えられる。一方、起始細胞の近傍の高さに分布するType II 線維の起始細胞は歯状回多形細胞層(門)に位置する抑制性の介在細胞と考えられるが、歯状回分子層内の介在細胞も含め、複数種類の細胞が関与している可能性がある。 Type I, Type II 線維の標的細胞については今後電子顕微鏡的解析や蛍光二重標識法による解析が必要である。そして、抑制性細胞を考慮した歯状回内の神経回路を解明することが求められる。
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