ヒトや他の霊長類は、表情・音声・ジェスチャーなどを用いて情動情報をやり取りしている。扁桃核は他種多様な情報を受け、多感覚情報を用いた情動情報のやり取りに重要な役割を果たしていると考えられる。これまでに扁桃核で発見した特定の表情と特定の音声いずれにも応答するニューロン活動は、多感覚情動情報に基づく適切な情動反応の生成に有用であると考えられる。このような応答が出来上がっていく過程を解明することを目的とした。 本年度は、実験に使用した3頭のサルの3種類の情動表出からなる9種類の情動刺激(いずれも1秒のビデオクリップ)が実際にサルの情動変化を引き起こすか否かを、サルの鼻部の皮膚温度の変化を調べることによって検討した。その結果、ThreatとScreamの情動表出を見たサルでは、鼻部温度が有意に低下することが分かった。一方、強い情動価を持たないCooでは、このような温度変化は認められなかった。安定した温度低下を引き起こしたThreatの刺激を用いて、視覚要素(動画のみ)あるいは聴覚要素(音声のみ)の効果も調べた。その結果、いずれの要素だけでも温度低下を引き起こすことが分かった。 今回ニューロン活動の記録実験に用いたビデオ刺激は、サルに情動変化を引き起こすものであったことが示された。
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