ショウジョウバエ視覚中枢のメダラ神経節は幼虫期において保存された4種の転写因子の発現によって同心円状に区画化される。これらの転写因子によって規定される個々の神経細胞の移動パターン・投射パターンを明らかにするため、相同組み換え・エンハンサートラップなどの方法を駆使してそれぞれの遺伝子の発現を再現するGal4系統の作製を試みた。Gal4の標的配列であるUAS下流でGFPを発現させ、モザイク解析を組み合わせることによって個々の神経細胞の形態を調べたところ、4種の転写因子のうちDrfを発現するメダラ神経細胞については(1) 少なくとも約60種存在するメダラ神経細胞のうち、9種の神経細胞を構成すること、(2) 細胞体の位置がバラバラであっても、高次の神経節であるロビュラの第1層および第4層特異的に投射すること、(3) ロビュラに至る投射は幼虫期においてすでに見られることがわかった。Drf陽性メダラ神経細胞は幼虫期において最終的な標的の近くまで投射した後、蛹期に細胞体の位置を大幅に変化させると考えられる。この細胞移動に重要な意味があるならば、細胞体の移動パターンと神経細胞の種類・転写因子発現の間には何らかの相関関係があるはずである。実際、成虫においてDrf陽性神経細胞のうちあるサブタイプについては細胞体が必ず脳の最も外側の領域に位置し、他のサブタイプについては脳のより内側というように、神経細胞の種類と細胞体の位置には強い相関があることがわかった。また、4種の転写因子のうちBshを発現するメダラ神経細胞は幼虫期には脳の内側に位置するが、蛹期の細胞移動によってかならず脳の最も外側の領域に移動することがわかった。
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