研究概要 |
大脳皮質における神経回路の形成には, 大前提として, 適切な数のニューロン(神経細胞)が生み出されることが求められる. ニューロンの産生主は神経前駆細胞であるが, その営みについては不明な点が多い. 大脳原基において, 神経前駆細胞は, 脳室と脳膜を結ぶ長い形態をしており, 細胞周期の進行に随伴して核移動をすることが古くから知られてきたが, 核移動の分子機構はよく分かっていなかった. また, 胎生中期の大脳皮質の原基では, ニューロンを生み出す(分化の方向に進む)一方で, 一定量の前駆細胞を維持する(未分化性を保つ)ことが行なわれているが, この非対称な細胞産生(非対称細胞分裂)の詳細は分かっていなかった. こうした問題を解くために, スライス培養を用いた細胞のライブ観察と薬剤による機能実験を行ない, まず, (1)神経前駆細胞の核移動に, 細胞内タンパク質のRacが貢献する可能性について検討した. Racは種々の細胞の動態を支えると知られる, 発生期の脳でもニューロンの移動に関与することが報じられていたが, 前駆細胞の挙動に注目して検討が行われたことはこれまで一度もなかった. 本研究で, Rac1の免疫染色性が神経前駆細胞の脳室端に強く認めら, Racの機能阻害によって, 神経前駆細胞の核移動に遅延か生じた. また, 細胞分裂にも支障をきたした. よってRacが神経前駆細胞の営みに関与していることが初めて示唆された. さらに, (2)非対称分裂に焦点をあて解析を行ない, 娘細胞の運命決定には脳室近傍の位置でのNotchシグナリングが作用していることを初めて明らかにした. またNgn2およびTbr2という転写因子の発現に関する時間空間情報を獲得することに成功した.
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