研究概要 |
昨年度の研究により、片眼遮蔽の結果生じたシナプスの可塑的変化を片眼遮蔽終了後も維持するためには、NR2B-NMDA受容体が片眼遮蔽の間、視覚入力により活性化される必要があることを示唆する結果を得た。今年度の研究においては、NR2B-NMDA受容体の阻害が片眼遮蔽に対するものと同様な影響をT型Ca^<2+>チャネル依存性長期増強に及ぼすか検討した。感受性期のラット視覚野スライス標本の、4層においた2対の刺激電極により誘発される電場電位を2/3層から細胞外記録した。条件刺激(2Hz, 15分)後、テスト刺激(0.1Hz)を続けている限り長期増強は維持されたが、条件刺激後30分から1時間テスト刺激を止めると、一部のスライスで増強は減衰し条件刺激前の反応の大きさに戻った。NR2B-NMDA受容体阻害薬Ro 25-6981存在下で条件刺激を与えると、テスト刺激を止めた後、より多くのスライスで増強の減衰が起こった。この結果は、片眼遮蔽後暗室飼育した場合の、非遮蔽眼刺激に対する視覚誘発電位の変化に類似している。次に、片眼遮蔽後正常視覚環境で飼育した場合を模した実験を行った。条件刺激を数回繰り返すと長期増強は飽和した。その後条件刺激を加えた側と加えなかった側に同時に条件刺激を与えても、どちらの側の反応にもほとんど変化が見られなかった。しかし、Ro 25-6981存在下で最初の条件刺激を与えた後に、両側に同時に条件刺激を与えると、最初に条件刺激を与えた側に変化は見られなかったが、新たに条件刺激を加えた側には長期増強が生じた。この結果は、片眼遮蔽後正常視覚環境で飼育した場合の視覚誘発電位の変化に類似している。以上の結果は、NR2B-NMDA受容体がT型Ca^<2+>チャネル依存性長期増強を制御していることを示しており、その長期増強が眼優位性のシフトを引き起こす重要な機構であることを強く示唆する。
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