これまで、私どもは神経伝達物質の放出にSNARE系の活性制御タンパク質であるトモシンが抑制的に働くことを明らかにしている。N末端側のWD40リピート領域によるSNARE複合体の形成と多量体化の促進とC末端側のVAMP様領域によるSNARE複合体形成の抑制の二つの作用により、トモシンが強力に神経伝達物質の放出を抑制する。 本年度は、トモシンのN末端側のWD40リピート領域によるSNARE複合体の形成と多量体化の促進とC末端側のVAMP様領域によるSNARE複合体形成の抑制という二つの相反する作用がどのように分子内調節されるか検討した。トモシンのN末側WD40リピート配列からなる2つのβ-プロペラは、酵素のように働いてシンタキシン-1とSNAP-25のVAMP2との結合を促進し、SNARE複合体を形成する。さらにSNARE複合体の多量体化を促進する。トモシンのC末端VAMP様領域はシンタキシン-1、SNAP-25と結合し、SNARE複合体に似た構造の複合体(トモシン複合体)を形成する。トモシンは、トモシン複合体を形成することによりSNARE複合体の形成を阻害する。私どもは、トモシンがTail領域とN末端WD40リピート領域、C末端VAMP様領域間の分子内結合状態を切り替えることで、SNARE複合体の形成を調節していることを明らかにした。このことから、トモシンは分子内結合状態を切り替えることでダイナミックに構造を変化させ、神経伝達物質の放出を調節していることが明らかになった。 このように本年度は、トモシンの作用機構について当初の計画以上の成果をあげることができた。
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