先に小脳皮質の抑制性GABAシナプス伝達が新しい機構で制御されていることを見出した。本研究課題では、その中でも後シナプス性機序による長期増強機構と、前シナプス性機構によるGABA伝達の抑制について研究を進めた。また、抑制性および興奮性シナプスの間で起こる新しい受容体間クロストーク現象の分子的基盤を明らかにすることを試みた。このため、今年度は代謝型グルタミン酸受容体mGluRlの応答がGABAB受容体の活性化で顕著に強化される受容体分子間クロストークの分子機構を明らかにするための実験系を確立した。脊髄後根神経節のニューロンを急性単離して、パッチクランプ記録法によって、代謝型グルタミン酸受容体mGluRlおよびGABAB受容体の相互作用が再現することを明らかにした。この実験系を用いて、以下の二つの仮説を検証している。(1)最初にGABA_B受容体と代謝型グルタミン酸受容体mGluRlによって活性化されるG蛋白サブユニットが相補的に機能を共有し、それに伴い一方の受容体機能(つまりmGluRl受容体の働き)が著しく促進される。(2)GABABおよびmGluRl受容体が、別の蛋白、たとえば足場蛋白(BDNF・NGF受容体)に連結して相互作用を起こし、mGluRl受容体機能を発現させる。すなわち「異なる複数の受容体が両者に共通した別の統合分子装置の役割を担う標的受容体インテグレーターに共役して受容体間trans-activationを起こし、受容体機能の最終出力を調節する」という可能性を検証している。これによってmGluRl-GABAB受容体間クロストークの細胞内シグナル伝達系を明らかにしたい。
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