今年度の研究から、摂食亢進ホルモンのグレリンは交感神経を抑制して自律神経を安定させることを明らかにした。 心機能亢進、気管支拡張、肝グリコーゲン分解、脂肪分解などの、自律神経によって支配されている生体機能は多いが、グレリンKOマウスでは血圧・心拍調節、体温調節、消化管運動などに異常が見られる。睡眠・覚醒によって血圧・心拍や体温は変化するが、グレリンKOマウスではその変動の幅が狭く、また基礎的な値の変動が著しかった。グレリンKOマウスにおける循環器系の機能解析を行ったところ、グレリンKOマウスでは血圧・心拍数の日内リズムが欠如し、また血圧・心拍数が不安定で変動が大きかった。グレリンKOマウスにおける消化管運動の解析をおこなったところ、グレリン投与によって胃酸分泌や胃の蠕動運動が刺激されるが、グレリンKOマウスでは消化管運動の機能低下が見られることを申請者らは見いだした。 グレリン投与によって交感神経が抑制、副交感神経が優位になる。これが自律神経の安定につながると考えられる。 末梢から分泌されたグレリンがどのようにして、視床下部の摂食調節領域や自律神経のコントロールを行うかに関して検討した。グレリン投与後の神経活動を詳細に調べた結果、末梢グレリンは迷走神経を刺激して、そのシグナルをまず延髄の孤束核に伝え、自律神経の調節領域に神経を伝達する。また新たに、グレリンによって延髄縫線核の小領域の神経核が活性化されることを見いだした。この領域は体温調節に重要な部位である。これらの結果から、グレリンは単に摂食調節だけでなく、自律神経機能の恒常性維持にも重要なことが示唆された。
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