末梢神経を損傷すると、上位中枢において受容野が拡大するなどの機能的な可塑的変化が生じることが報告され、特異的な分子の発現も報告されている。しかしながら、神経回路、シナプスにおける変化については未だ十分明らかになっていない。申請者はこの問題に対し、三叉神経を切断した神経損傷モデルマウスを用いて、末梢神経損傷による可塑的変化を神経回路レベル、シナプスレベルで明らかにした。即ち、眼窩下神経切断によって、上位中枢である視床VPM核において神経回路の改編機構を電気生理学的に解析した。視床VPM核は体性感覚の中継核であり、その求心性線維である内側毛帯線維は、三叉神経核を起始核とし、齧歯類では主に髭の感覚情報を運んでいる。申請者は、VPM細胞への内側毛帯支配様式が、生後21日目までに内側毛帯線維が一本支配に完成されることを明らかにした。さらに、生後21日目以降で、マウス髭の感覚神経(眼窩下神経:三叉神経第二枝)を切断すると、わずか一週間であたかも発達過程を逆行したかのごとく、VPM細胞が複数の内側毛帯線維に支配されるようになる再多重化現象を発見した。また、新しくシナプスを形成したと思われる弱いシナプスは、そのシナプス電流の振幅が小さく、シナプス後膜側にグルタミン酸受容体であるAMPA受容体のGluR2(+)が出現してくる一方で、NMDA受容体は変化しない事を突き止めた。これらの成果は2008年、2009年の日本神経科学大会で報告した。
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