本研究の目的は音声発声学習の臨界期制御に関わる遺伝子群を明らかにし、その脳内機能を実験的に検証していく手立てを確立することにある。音声発声学習では「声を出す」という自発的行動が、脳内分子レベルにおいても重要な意味をもつと考え、これまでに鳴禽類ソングバードの発声行動により発現誘導される40にも上る遺伝子群の網羅的な同定してきた。当該年度においては、さらに[発声行動依存性]+[神経回路特異性]+[学習臨界期間限定性]を兼ね備えた遺伝子群が存在することを明らかにし、ソングバード脳内神経核で、各々の脳部位特異的に多段階発現(時空間)制御を受けた発現制御を同定してきた。これまでの脳内発現パターンの検証から、特にEgr famiyの神経活動依存的な脳内遺伝子発現ダイナミクスは非常に興味深いと考えている。Egr familyはこれまでの哺乳類を用いた研究において、海馬での長期増強や空間学習・記憶形成に重要な転写因子ファミリーとして知られる。ソングバード脳内でそのEgr familyの一つの発現誘導制御に、[発声行動依存性]+[神経回路特異性]+[学習臨界期間限定性]とさらに日内制御が関わっていることを示唆するデータを得た。これは、音声発声学習効率の概日リズム(一日のなかで学習効率が変わる)の存在に関わる知見になる可能性がある。 また、[発声行動依存性]+[神経回路特異性]+[学習臨界期間限定性]を兼ね備えた遺伝子群の脳内機能を見るべくレンチウイルスを用いた遺伝子発現系の実験を開始している。同時に、上記に述べたように、脳内遺伝子群の発達段階.環境に即した多段階発現(時空間)制御を受けた発現制御こそが出力行動の質を与える物質的基盤ではないかとの作業仮説に、時空間制御が可能なレンチウイルス発現系の確立も進めている。
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