研究概要 |
末梢神経系を構成する神経ネットワークは、そのほとんどが神経冠細胞(Neural Crest Cells, 神経堤細胞ともいう)に由来する。神経冠細胞は発生初期において、神経管の背側正中線から移動を開始し、体内をダイナミックに移動した後、脊髄神経節、交換神経節、副腎髄質などを形成する。しかしながら、神経冠細胞の移動がどのようなしくみによって制御されているのかについては充分理解されていない。我々は、神経冠サブタイプのひとつである、交感神経-副腎髄質細胞の前駆体(SA細胞とよぶ)に注目して、神経冠細胞の移動のメカニズムを明らかにすべく研究を進めている。SA細胞は集団となって、まず背側大動脈にたどりつく。次にこれらSA細胞の中から、一部の細胞がA細胞(副腎髄質細胞前駆体}として選択される。A細胞は、さらに移動を続け、最終目的地である副腎までたどりつく。本年度は、背側大動脈にたどり着いたSA細胞集団の中で、A細胞がどのようにして選択されるかについて解析を行い、以下の結果を得た。SA細胞が背側大動脈にたどり着く際、これらの細胞ではBMPシグナルが活性化している(マーカー : リン酸化SMAD)。大動脈到着後、これらの細胞のBMBシグナルは、一旦不活性化される。さらに発生が進むと、SA集団の一部の細胞のみでBMPシグナルが再活性化され、これらの細胞こそが、後に副腎方向に移動するA細胞であった。BMP受容体のドミナントネガティブ型を用いた解析などから、A細胞におけるBMPシグナルの再活性は、この細胞サブタイプが副腎方向に移動するのに必須であることがみえつつある。本研究により、SA細胞のダイナミックな移動には複数のガイダンス因子が関与すること、また生体内における細胞の移動、停止、再移動といった複雑な細胞挙動の制御にはBMPシグナルのスイッチングが鍵であるなど、移動する細胞を取り巻く周辺環境の重要性と、それを制御する新たな分子機構がみえてきた。
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