大脳皮質層形成に辺縁帯のリーリンが必須であることは明らかであるが、リーリン分子発見から10年以上が経過した現在でも、その生物学的機能は不明である。リーリンは、「移動停止シグナル」と考えるのが一般的であるが、本研究で、リーリンの生物学的機能を明らかにするために子宮内電気穿孔法をマウス胎児に適用してリーリンの異所的な強制発現を行ったところ、移動神経細胞のリーリン周囲への凝集が観察された。興味深いことに、リーリン発現ベクターを導入された細胞に限らず、後続のリーリン陰性の移動細胞も、その異所的凝集塊に巻き込まれていることがわかった。正常な層形成過程を鑑みると、リーリンによる異所的な細胞凝集塊は、後続の移動細胞の障壁にならないことが必要であると考えられるため、次に子宮内電気穿孔法を胎生期の二時点で適用し、リーリンによって作られた早生まれ細胞(例えばGFPを導入した細胞)の凝集塊中に遅生まれ細胞(例えばDsRedを導入した細胞)が進入できるかを検討した。また、得られた凝集塊を皮質の各層に特異的なマーカーに対する抗体で染色し、局在を比較するとともに、BrdU及びIdUを二時点で投与し、凝集塊内での分布を調べた。その結果、リーリンによる異所的細胞凝集は、"インサイドーアウト"様式、すなわち、遅生まれ神経細胞が早生まれ神経細胞を乗り越えて凝集塊のより中心近くに配置されるという様式で形成されることが明らかになった。
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