研究課題
成熟した個体の脳におけるシナプスの生成・消滅を支える分子機構については未だに不明な点が多い。その原因の一つは、成熟脳におけるシナプス形成や消滅は、数が少なく、かつ時間的に揃っていないことである。私たちはこれまでにδ2グルタミン酸受容体とCblnl分子が、発達時のみでなく成熟脳においてもシナプスの機能的可塑性と新規形成を制御することを世界に先駆けて解明した(Nature Neurosci, '00 ; Nature Neurosci, '03 ; Nature Ne urosci, '05)。その結果、δ2受容体とCbln1シグナル経路を特異的に活性化ないし不活化する分子ツールの確立に成功した。これらの独自の分子ツールを活用することにより小脳と海馬をモデルとして、成熟脳におけるシナプスの機能的・形態的可塑性の分子機構を明らかにするとともに、これらの過程を外的に制御することを目指している。最近、δ2受容体のN末端部分をδ2受容体欠損動物の小脳に強制的に発現させると、わずか24時間以内に新たなシナプスが形成され、成熟後においても運動失調症状が劇的に改善することを見いだした(J Neurosci, in press)。また、組換えCblnlを小脳に注入することにより、小脳における運動学習の成立過程を制御できることも分かってきた(投稿準備中)。面白いことに、いったん成立した運動記憶については組換えCblnlは作用しないことも分かった。このように記憶の各相における可塑性シナプスの移動機構の解明の糸口もつかみつつある。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Neuroscience 28
ページ: 5920-5930