私達は、感覚ニューロン樹状突起のタイル構造に特異的な異常を持つショウジョウバエ変異体の単離および原因遺伝子の同定を行ない、NDRキナーゼ・ファミリーに属するリン酸化酵素TrcキナーゼとWtsキナーゼが、樹状突起のタイル形成とその維持において、それぞれ中心的な役割を果たしていることを示した。本研究領域では、Trcキナーゼ・シグナルおよびWtsキナーゼ・シグナルの時空間制御メカニズムに着目して、同種ニューロンの樹状突起が、受容領域を自己組織化する分子機構を解明することを目指している。まず、Trcキナーゼと遺伝的機能相関を示す遺伝子群の網羅的スクリーニングを行い、PH様ドメインを持つタンパク質Sin1を同定した。Sin1は、TORキナーゼやRictorなどと共にTORC2複合体を形成し、細胞骨格制御に関与することが示唆されているが、神経機能は不明である。Sin1変異体やRictor変異体では、Trcキナーゼ変異体と同様に、樹状突起のタイル化に顕著な異常が見られた。Trcキナーゼは、C末近傍のスレオニン基(T449)にリン酸化を受けることにより活性化されるが、TORC2複合体の変異体や、TORC2構成分子をRNAiノックダウンした培養細胞では、T449のリン酸化が顕著に低下していた。従ってSin1は、Trcキナーゼの活性化を介して、樹状突起のタイル化を制御する因子と考えられる。
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