これまでの本研究課題で私たちは、樹状突起フィロポディアに局在する分子群として終脳特異的細胞接着分子テレンセファリン(TLCN: ICAM-5)、活性型リン酸化ERMアクチン結合蛋白質群(Ezrin/ Radixin/ Moesin)、F-アクチン及びPI(4、5)P2を同定した(J. Neurosci. 2006; 2007)。特にTLCNとリン酸化ERMは成熟したスパインにおける発現量は低く、樹状突起フィロポディアに豊富に存在することから、これらを樹状突起フィロポディアのマーカーとして用いることが可能となった。平成20年度においては、細胞外マトリックス分子ビトロネクチンが、TLCNと特異的かつ高親和性に結合することを発見し、この分子間相互作用が樹状突起フィロポディア形成を誘導するための細胞内シグナル伝達カスケードを起動させる可能性が示唆された。さらに、ビトロネクチンを表面に結合させたラテックスビーズがTLCNを介して培養海馬神経細胞の樹状突起に強く接着し、ビーズの周囲にはTLCN、リン酸化ERM、F-アクチン、PI (4、5)P2が集積し、あたかも貪食細胞のようにビーズを取り囲む細胞膜突出構造(Phagocytic Synapse)を形成することを見出した。以上の基礎データをもとにして、樹状突起フィロポディア構成分子群が濃縮された細胞下画分の生化学的精製法の確立を行った。具体的には、ビトロネクチンを結合させた磁性ビーズを培養海馬神経細胞の樹状突起に接着させ、緩和な条件の界面活性剤で可溶化し、ビーズを磁石で精製することによって、このビーズに結合したTLCNを含む機能分子複合体を精製した。精製画分において樹状突起フィロポディア構成分子が濃縮されていることを抗TLCNを用いたウエスタンブロット解析により確認した。さらに本両分に豊富に含まれる数種類のシグナル伝達分子の同定にも成功した。
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