研究概要 |
自閉性障害、アスペルガー障害などの広汎性発達障害の主要症状に対人的相互性の障害があるが、その基礎に他者の感情を推定する表情認知の障害が報告されている。また、他者の顔を見たときに目の部分を見ることがなく、このことが自閉症などで他者と視線を合わせない特徴を表していると言われる。そこで、本研究では自閉性障害、アスペルガー障害などの成人広汎性発達障害者について、1)表情認知が困難かどうか、2)他者の顔のどの部分を見るか、を視線解析で調べ、3)同様の表情の顔をみたときに賦活される脳部位をfunctional MRI(fMRI)を用いて検討した。被験者は10名の成人広汎性発達障害者(平均29.5才)と10名の健常者(平均28.1才)とし、1.5T のMRI装置(GE社製)に仰臥位となり、ヘッドコイルに装着したミラーを通して、スクリーンに投影されるHappy(H), Sad(S), Angry(A), Neutral(N)の4種の表情の顔の視覚刺激(ATR製)で、1試行は1秒間の表情の提示とそれに続く14秒間の中心固視点の提示とし、1セッションは20試行とした。被験者は同じ表情が2回連続した時にボタンを押すように指示された。得られた機能画像はSPM5を用いて解析し、H, S, A, Nの4種の表情間の脳の賦活の違いを比較した。ボタン押しの正答率は、健常群97.3±1.8%に対して、PDD群では94.5±5.3% で有意差はなかった。(p=0.137)。fMRIは、健常群とPDD群においてH vs. N、 S vs. N、 Avs. Nのような条件で個人データの解析を行い、引き続き各条件で健常群とPDD群の群間比較を行った。H vs. Nでは中心前回(Ba6)、下前頭回(Ba46, 47)、内側前頭回(Ba10)で有意な賦活の群間差を認めた。S vs. Nでは下前頭回(Ba10) 、 Avs. Nでは下前頭回(Ba44)に有意な賦活の群間差を認めた。さらにH vs. Aでは中前頭回(Ba6, 9, 10)、H vs. S では上前頭回(Ba6, 8)、中前頭回(Ba6)に有意な賦活の群間差を認めた。このように表情認知による賦活には健常群と広汎性発達障害者群の間に有意な差を認めた。また、被験者は、頭部を固定してGomputer display上のhappy, sad, angry, neutralの4種の表情の顔の視覚刺激を見て、DITECT社製のView Trackerにて視線解析を行った。一つの表情の写真を6秒間提示し、顔のどの部分へ視線が動いたかをみるために顔の各部分への総停留時間を調べた。視線の部位、時間には両群間で優位の差はなく、また、同様の顔の映像を見て、1秒間で表情を正しく答えることができるかも調べたところ、視線移動の部位、表情認知の正誤には有意差がなかった。このことから、広汎性発達障害者群では、表情認知の際に健常群と異なる脳の領域を使って対処している可能性が示唆される。
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