研究概要 |
孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)運動ニューロンでは、AMPA受容体GluR2サブユニットQ/R部位のRNA編集が低下しており、これはRNA編集酵素adenosine deaminase acting on RNA 2(ADAR2)の活性低下によると考えられる. この分子変化が運動ニューロン死の直接原因となることを, 運動ニューロン選択的なADAR2コンディショナルノックアウトマウスADAR2flox/flox/VAChT-Creの解析により明らかにした. ADAR2に依らず編集型GluR2(GluR-BR)を発現する変異マウスと交配して得たADAR2flox/flox/VAChT-Cre/GluR-BR/Rマウスで運動ニューロン死が生ずるかどうかを検討した。GluR-BR/Rマウスは行動, 神経病理学的異常を示さないが, 交配により得られた変異マウスはロータロッドスコアが低下せず, 組織学的検討では, ADAR2の免疫活性を消失した運動ニューロンが20-30%にみられたにもかかわらず, 神経細胞死を示唆する形態的, 生化学的所見はみられなかった。したがって、脊髄運動ニューロンにおけるADAR2ノックアウトは, 専らGluR2Q/R部位のRNA編集異常を通じて神経細胞死を誘導すること, 孤発性ALSではADAR2活性低下が神経細胞死の直接原因であることが明らかになった. さらに, ADAR2flox/flox/VAChT-Creで脊髄運動ニューロン以外の脳運動神経核を検討すると, GluR2Q/R部位のRNA編集率低下は何れの脳運動神経核にも生じているにもかかわらず, 外眼筋神経核は保たれるという, ALSの病変の選択性がみられ, ADAR2活性低下による脆弱性の違いが, ALSの選択病変を再現することが明らかになった.
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