マウスモデルを用いてネプリライシン(NEP)の活性低下による脳の病理形成機構を解析し、アルツハイマー病(AD)病理との類似点について検討した。 NEPを欠損したアミロイド前駆体蛋白質トランスジェニックマウス(NEP-KO X APP tg)脳ではAPP tgマウス脳に比較して加齢依存的に3pyroE型Aβの形成と蓄積が加速することが判った。 3pyroE型A・βの産生鴎NEP活性の低下を補償する副経路を経由して産生し、その経路にはアミノペプチダーゼ(AP)、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)やグルタミニルシクラーゼ(QC)が関与する考えれた。In vitroの実験で、AP-N、AP-AやDPP4がAβ分解活性を有することは確認しているが、NEP-KO×APP tgマウス脳ではAPP tgマウス脳に比較してAP-NやDPP4の発現量が1.5〜2倍上昇するので、これらのペプチダーゼが関与する可能性が高い。一方、グルタミン酸からピログルタミン酸への変換を触媒するQC量は、18ヶ月齢のNEP-KO×APP tgマウス脳ではAPP tgマウス脳に比較して膜両分で4倍、可溶性両分で10倍まで増加し、上述のペプチダーゼの発現増加量を大きく上まることから、AP-NやDPP4によってN末端のアミノ酸残基の切断を受けたAβは3pyroE型Aβ形成に向い、その結果アミロイド形成が促進するものと考えられる。このように、ネプリライシンの活性が低下するとAPN、DPPIVおよびQCの発現量が増加してヒトに類似するアミロイド病理(3pyroE型Aβの形成と蓄積)が現れることが明らかとなった。ネプリライシン活性の増強は、Aβの分解を促進するだけでなく、3pyroE型Aβの産生・蓄積を抑制する上で重要な意味を持つと言って良い。
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