アルツハイマー病の発症には、アミロイド前駆体タンパク質からセクレターゼによって切り出されるアミロイドβペプチド(Aβ)の神経細胞膜への凝集・沈着が深く関わっている。 GM1ガングリオシドとの相互作用が引き金となって開始するAβの重合メカニズムを解明するために、超高磁場NMR計則を行い、AβとGM1の相互作用の構造的基盤を明らかにすることを試みた。 NMR信号の広幅化をもたらす非選択的な磁気一双極子相互作用を断ち切るために、^13C、^15N、^2Hを用いてAβ(1-40)に安定同位体三重標識を施し、920 MHz超高磁場NMR装置を利用した計測を行った。その結果、ピークの広幅化が大幅に改善され、これまでは観測が困難だった糖脂質ミセルに結合した状態のAβ(1-40)のNMRシグナルを観測することに成功した。 NMR解析の結果から、Aβ(1-40)は中央部分に2つのαヘリックス構造を形成してガングリオシドミセルに結合しており、他の領域は特定の二次構造を形成していないことが判明した。また、飽和移動実験の結果から、Aβ(1-40)はガングリオシドクラスターの疎水性部分(脂質)と親水性部分(糖鎖)の境界面において、2つのαヘリックスとC末端のジペプチド部分(Val39-Val40)は疎水的環境に埋没し、残りの領域(N末端領域およびαヘリックスのリンガー領域)は親水的環境に露出しているトポロジーを呈していることを明らかとした。
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