ATLAS実験でのbクォーク起源のジェット(bジェット)同定においては、同定のためのアルゴリズム開発だけでなく、その性能評価も重要な課題である。というのも、LHCのようなハドロン衝突型加速器実験においては同定効率および誤同定確率測定のためのサンプルを収集するのが難しいため、その性能評価の不定性がbクォークを使った物理解析の主要な系統誤差をもたらす。本研究ではbジェット同定性能評価の新しい手法をシミュレーションにより構築し、原理的に測定可能であることを実証した。次のステップは、この手法による測定の誤差を評価し、実際の物理解析における有用性の確認である。仮に、既存の方法に比べて誤差を抑えることができなかった場合でも、まったく別の手法による測定なので、既存の測定方法に対するバイアスの有用なテストとなりうる。 本研究のもう一つの課題として、bクォークを終状態に含む超対称性(SUSY)事象の探索に関する研究を行った。第三世代超対称性粒子が生成された事象に関して特定の崩壊過程に着目し、SUSY事象に特有の運動学的特徴の探索可能性についてシミュレーションを用いて調査した。その結果、1fb^<-1>のデータがあればSUSY事象であると同定可能になるSUSYのパラメータースペースがあることを確認した。さらに、この解析において重要な役割を果たすbジェットの同定性能に解析結果がどのように依存するかも調べた。また、ヒッグスボソンが生成されるSUSY事象にも着目し、SUSYのパラメータスペースによっては1fb^<-1>のデータで優位に発見可能であることもシミュレーションの結果わかった。
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