研究概要 |
燃焼プラズマから発生するヘリウムや水素同位体粒子の被爆によるプラズマ診断用ミラーの光学特性劣化挙動を解明することと,この知見に基いた監視システムへの適用性を検討することを目的とした研究を実施した。 今年度は,比較的広い波長範囲(200~2500nm)で高い反射率(0.6~0.9)を示すMo多結晶および単結晶材を用いて,1~5keVの重水素およびヘリウムイオンの単独あるいは同時照射を行った。そして,照射効果を反射率その場測定,電子顕微鏡組織観察,分光エリプソメトリー法により測定した。得られた主要な結果を以下に示す。 (1) 重水素照射の反射率劣化に及ぼす影響は,10%程度に留まっているのに対して,多結晶材のヘリウム照射では,80%程度まで大きく劣化した。重水素照射効果よりもヘリウム照射効果が重要であることが明らかになった。 (2) ヘリウム照射の場合でも高温照射ほど劣化は少ない。このことは,レザー光侵入域での照射欠陥の拡散,消滅の効果と考えられる。ミラーの高温使用は長寿命化に有効であることが明らかになった。 (3) 方位を制御した単結晶材では,劣化の程度は多結晶の場合の1/2~1/3であり,結晶方位を制御した単結晶化は,ミラー材の長寿命化策として有効であることが明らかになった。さらにこの原因を検討した。 (4) 二重ビーム照射による反射率劣化は,大部分はヘリウムの照射効果であった。重水素照射効果は,照射初期では損傷形成を促進し,照射後期では,表面スパッタリング等により返って劣化を軽減する効果があることが分かった。 (5) Mo蒸着膜堆積層をMo試料上に形成し,照射による反射率の劣化挙動に及ぼす堆積層の効果を明らかにした。 (6) 分光エリプソメトリーの測定から,照射により,誘電率の実部は負から正に変化し,大部分を占める虚数部は減少した。これに伴って屈折率や,消衰係数も減少することが明らかになった。このことは,電子顕微鏡観察の結果と合わせて考えると、表面直下に形成される転位ループやバブルにより,電子構造が大きく変化し,金属的性質が低下し,結果として反射率が劣化することを示唆している。劣化機構の解明に向けて大きい進展が見られた。
|