これまで、電極-分子接合を構築する方法として、チオールと金表面における共有結合による方法が広く用いられてきたが、その電気伝導性は必ずしも良くなく、より効率的な接合の開発が切望されている。本申請課題では、合成化学的な観点から分子の自己集合を制御し、金属表面に3次元的に定義された空間を創出し、そこヘパイ共役分子を吸着させ接合し、その構造と電気伝導性を走査型トンネル顕微鏡(STM)により明らかにすることを目的としている。 これまで申請者らは直鎖の長鎖アルキル基により置換されたデヒドロベンゾ[12]アヌレン(DBA)誘導体を用いた有機溶媒/グラファイト界面における2次元多孔性ネットワークの形成について報告した。本研究の最終目的を達成する初期段階として、このDBA誘導体が有機溶媒/金(111)界面において多孔性のネットワークが形成するか調査する必要がある。そこでDBAの1、2、4-トリクロロベンゼン/金(111)界面においてSTM観察を行った。結果として、若干の構造変化があるものの、多孔性のハニカム構造が形成されることが分かった。次に、三次元的に拡張されたナノ空間の構築を目的として、分岐を持ったアルキル鎖を有するDBAの合成を行った。合成した新規DBA誘導体の2次元多孔性ネットワークの構造をはじめに1、2、4-トリクロロベンゼン/グラファイト界面で調査したところ、驚いたことに積層膜が観察された。次年度では継続して、この積層膜の金基板上での構築、並びにゲスト分子の共吸着による電極-分子接合系の構築を行う予定である。 なお、本研究と関連の深い成果を海外の学術誌に一編報告した。
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