研究概要 |
電気伝導に伴う局所発熱の理論 昨年度、非弾性散乱の結果生じる発熱と発生熱の熱電極への伝導・拡散を自己無撞着に取り扱う理論をフォノン伝導も含めて導出した。(Phys.Rev.B78,045434(2008))今年度はこの理論を用いて実験研究がなされている幾つかの系に対して適用計算を行った。特にTao等が実験研究を行ったアルカン・ジチオール分子系における計算を行った結果、実験的に見積もられている有効温度(T_<eff>)の電圧依存性を定性的に良く再現する結果が得られた。特に、高バイアス側では発生熱の熱電極への伝導が顕著になり、Todorov・DiVentra等のバルクフォノンモデルから推定されているT^4_<eff>~V^2からの小さなずれが見られる事が明らかになった.更にこの局所発熱(分子内部の熱発生と熱拡散のバランスで決まる)に対する電子相関の寄与を調べる為の理論を遮蔽クーロン近似(GW近似)の範囲で導出し、幾つかの系においてフォノン効果とクーロン斥力効果を併せた競合問題に対するテスト計算を行った。その結果、アルカン・ジチオール分子系の様な深いトンネル系においては、IETSに対する電子相関効果はマイナーである一方、共鳴系にある金ワイヤーなどの系においては、クーロン斥力がある充分に大きいと、フォノン由来の非弾性トンネルスペクトル(IETS)のオフ・セット領域や局所発熱に電子相関からの顕著な影響が現れることが判明した。この問題に関してもDiVentra等の先行研究があるが、フォノン熱拡散や流体力学的な取り扱いに基づく現象論的な電子相関に無理があり、我々の結果とは異なる点が随所に現れる。IETSの詳細な構造や熱・エネルギー問題を扱う際には接合界面における温度強化条件などをかなり真面目に扱う必要がある事がこの事から伺い知れる。
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