研究概要 |
本研究の目的は、QCDの特徴を捉えた有効クォーク模型により、核子間力を含む任意の基底状態バリオン間の統一的相互作用を微視的クラスター模型の枠組みを用いて作成することである。これらに対しては、既にFSS, fss2という現実的クォーク模型バリオン間相互作用が既に得られているが、近年の詳細な少数多体Faddeev計算により、特にΛ-核子相互作用において中心力やスピン軌道力部分の不十分さが明らかになった。今年度は、核子間相互作用について中性子・重陽子(nd)散乱をAlt-Glassberger-Sandhas(AGS)方程式を用いて検討し、中性子の入射エネルギーが実験室系で65MeVまでの実験データや、他の中間子交換模型との詳細な比較を行った。その結果、fss2によるnd弾性散乱の記述は、中間子交換模型に劣らない精度で実験データを再現しており、特に、従来問題であった中性子の散乱分解能の低エネルギー領域での不一致(所謂、Ayパズル)や三体力の証拠とされる高いエネルギー領域での微分散乱断面積の極小値が小さすぎる点が大きく改善した。散乱偏極量については、多くの図がQMPACKホームページに公開されている。一方、重陽子の崩壊過程の微分散乱断面積については、実験との一致は弾性散乱の時ほどよくはないが、定性的には中間子交換模型の場合と似た振舞いを示す。即ち、二体T-行列の特徴的な部分が大きく寄与するquasi-free散乱や終状態相互作用のピークは正しく再現されるが、space-star等の三つの核子が同時に関与する崩壊過程に対しては中間子交換模型と同じ問題が残り、多くの場合微分散乱断面性は小さすぎる。また、我々の計算ではcollinearと呼ばれる配位において精度の問題が残っており、今後の課題である。
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